プロジェクト管理のための手法、アジャイルとそれを使ったツールの紹介を今回と次回にわたって行います。
目次
■アジャイル開発
アジャイルは、今や、ソフトウエア開発プロジェクトの大半が活用している概念です。
以下にその概要をメモにまとめてみました。
アジャイル開発の概要
- 目的:変化に強く、価値を早く継続的に届けること。段階的(イテレーション)にソフトウェアを作り、頻繁にリリース・検証してフィードバックを反映する。
- 特徴:短い反復(スプリント)・顧客との密な協働・動くソフトウェアを重視・変更を歓迎。
代表的フレームワーク
- Scrum(最も普及): 役割(Product Owner, Scrum Master, 開発チーム)・スプリント(通常1〜4週)・定期イベントが特徴。
- XP(エクストリーム・プログラミング):ペアプログラミング、TDD、継続的インテグレーションなど実践的技術に重心。
主な役割
- Product Owner (PO):プロダクトの価値最大化責任。プロダクトバックログの優先順位決定、ステークホルダーとの調整。
- Scrum Master (SM):プロセスの円滑化・障害除去・チームの自己組織化支援。
- 開発チーム:設計・実装・テスト・デプロイを担うクロスファンクショナルチーム(一般に5〜9名推奨)。
- ステークホルダー/ユーザー:要求提供とフィードバック。
主な成果物(アーティファクト)
- プロダクトバックログ:要件・ユーザーストーリーの一覧と優先順位。
- スプリントバックログ:そのスプリントで取り組む項目の集合。
- インクリメント:各スプリントで完成(Definition of Doneを満たした)したソフトウェアの成果物。
- Definition of Done(DoD):「完了」の基準(テスト合格、ドキュメント、コードレビュー等)。
主要イベント
- スプリント(Sprint):固定期間(1〜4週)。スプリント期間中は計画変更を避ける。
- スプリントプランニング:スプリントの目標定義とバックログアイテム選定。見積り(ストーリーポイント)も行う。
- デイリースクラム(Daily Standup):15分以内、進捗・妨げ・当日の予定を共有。
- スプリントレビュー:インクリメントをステークホルダーにデモし、フィードバックを得る。
- スプリントレトロスペクティブ:チーム内でプロセス改善点を洗い出し次スプリントに反映する。
典型的な 1 スプリントの流れ(例:2週間)
- Day 0: バックログ整備(Refinement)でアイテムを準備
- Day 1: スプリントプランニング(目標・作業選定)
- Day 1〜10: 実装・テスト・CI(毎日デイリースクラム)
- Day 9: スプリントレビュー(デモ、フィードバック収集)
- Day 9〜10: レトロスペクティブ(改善点の合意)
- 次スプリントに向けてバックログを更新

要件やストーリーの書き方
ユーザーストーリー形式:As a <role>, I want <goal> so that <benefit>.
- Acceptance Criteria(受け入れ基準)を明確に書く(例:Given/When/Then形式)。
- INVEST原則:Independent, Negotiable, Valuable, Estimable, Small, Testable
見積り・計画
- ストーリーポイントを用いた相対見積り(プランニングポーカー等)。
- Velocity(ベロシティ):スプリントあたり完了したストーリーポイントの平均。将来の計画に利用。
- バーンダウンチャート:残作業の減りを可視化。

- 自動化(ユニットテスト、統合テスト、E2E)と継続的インテグレーション(CI)を重視。
- Definition of Done にテストカバレッジや自動テスト通過を含める。
- TDD / ペアプログラミング / コードレビューなどを取り入れると品質向上。
デプロイ・運用
- 継続的デリバリ(CD)を導入してリリースの頻度を上げる。Feature flagを使うとリスク低減。
- モニタリングとフィードバックループ(運用から開発へフィードバック)を確立する(DevOps文化)。
指標(KPI)
- Velocity、リードタイム(要件投入からリリースまでの時間)、サイクルタイム、バグ件数、デプロイ頻度、平均復旧時間(MTTR)など。
よくある課題と対処法
- 課題:過度なスコープ追加(スプリント中の割り込み)→ 対処:PO が優先度管理、クリティカルな変更は次スプリントへ。
- 課題:不明確な要件→ 対処:早期プロトタイプ、頻繁なステークホルダー連携、Acceptance Criteria の強化。
- 課題:チーム外からの指示や上下の介入→ 対処:スクラムマスターが調整、チームへのルール周知。
- 課題:技術負債の蓄積→ 対処:バックログに技術負債項目を入れ、計画的に解消。
スケーリング(複数チーム)
- SAFe, LeSS, Nexus などのスケーリングフレームワークでチーム間の同期・アラインメントを取る。
- 共通のインクリメント、同じスプリントリズム、定期的なクロスチームレビューを実施。
実践のコツ(チェックリスト)
- スプリントは短め(2週間推奨)でフィードバックを早く得る
- DoD と Acceptance Criteria を必ず明確化
- 自動テストとCIの比重を高める
- デイリーを短く、問題の可視化に徹する
- PO は優先順位を継続的に手入れする(Backlog Refinement)
参考
CI/CD とテストフローを入れた DevOps 図

著者:松尾正信
株式会社京都テキストラボ代表取締役
