2023年は今のところ、世界の政治や経済は無難に推移している。だが現状は嵐の前の静けさなのでないか。
2月19日の米紙WSJは、国際原子力機関(IAEA)がイランで濃縮度84%のウランを検知したと報じた。核兵器級の90%に近づいているのだとしたら、イスラエルが手を拱いているはずがない。イランの後ろ盾=ロシアがウクライナでの戦争で手一杯である今、早ければ数ヶ月以内に中東で戦争が起きても不思議はない。
■世界のパラダイムシフト
そんな不穏な想定をするのは、世界は80年ごとに「政治・経済、社会が一変するパラダイムシフト」を迎えてきたからだ。
1780年代は、日本は天明の大飢饉、欧州はフランス革命、米国は独立戦争。次の1860年代は、日本は幕末、欧州はイタリアとドイツの国家統一、米国は南北戦争。そして1940年代は世界大戦がその実例だ。
■混乱の時代の幕開け:インフレ
だから筆者は講演等で「次の2020年代の10年期は世界的規模で『幕末』に匹敵する混乱が起きる」と述べてきた。その始まりが疫病の蔓延とは想定外だったが、ウクライナ戦争で混乱の第2幕が開いた。
その結果、過去30年間のグローバリゼーションは終焉を迎え、80年代までの高物価=インフレの時代に戻り始めたのだ。
■不安要素:債務超過
だが世界は低金利の持続を前提に債務を積み上げ、現在の債務比率は1933年以来の水準にある(図1)。
そんな過剰債務がある中で金利が急騰しているのだ。
このうえ更に中東で戦争が起きたらどうなるのか。全世界的に物価の上昇が止まらなくなり、債券市場は壊滅的な打撃を受けるだろう。一方、商品は貴金属や農産物を中心に買い手が殺到し、株式は一旦、暴落した後、資産株を中心に値上がりに転じるのだろう。
■過去の教訓:米相場、地価暴騰
ちなみに冒頭で述べた「80年周期のパラダイムシフト」時に日本では、1860年、1940年の中心年の5年後に米相場、商業地地価とも8倍以上に暴騰している(図2)。
2020年の5年後=2025年にそんなことが起きるとは思う人は誰もいないだろう。筆者もその一人だが、二度あることは三度あるという言葉が頭の片隅から離れないもう一人の自分がいる。
次回掲載予定は2023年4月上旬3月29日に変更
著者:市岡繁男
1958年、北海道生まれ。81年一橋大学経済学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。支店や調査部を経て、87年から資産運用部門で勤務。1996年に同社を退職後は、内外金融機関やシンクタンクで資産運用や調査研究業務を務めた。 2018年に独立し、現在は財団や金融機関の投資アドバイザーを務める。著書に『次はこうなる』『次はこうなる 2023年』(ICI出版)がある。