インドで半導体産業育成の動きが活発化

2023年8月23日

半導体サプライチェーンと経済安全保障にからみ、中国を睨みながらの日米、台湾の動きが強まっている折、インドが半導体産業の育成に乗り出している。
インド政府は2021年末に、半導体とディスプレー製造エコシステム開発に向けた総合計画「インド半導体ミッション=ISM」を打ち出した。以来、半導体産業育成へ様々な動きが活発化してきている。今後、どのような海外企業を巻き込んでの動きに収斂されるかが注目される。

インド半導体ミッション

半導体とディスプレー製造エコシステム開発に向けた総合計画「インド半導体ミッション=ISM」は、2021年12月にインド政府が発表した半導体とディスプレー産業の振興策。政府による支援総額は7,600億ルピー(1ルピー=約1.7円換算で約1兆2,920億円規模)。企業ないし企業連合に対する振興策の内容は以下だった。

・シリコン半導体やディスプレー・メーカーの工場新設時に、投資コストの50%を上限に財政支援。支援対象はそれぞれの分野で最低2件

・電子・情報技術産業省が中心となり、すでにある半導体研究所の近代化を図り、研究成果の商業化を進める

・化合物半導体や半導体パッケージ工場の新設に際し、投資コストの30%を上限に財政支援。支援対象は少なくとも各分野合計で15件以上

・半導体設計会社に対し、設計連動型優遇策として、5年間にわたり対象経費の50%を上限に財政支援。支援対象は100社以上

インド政府は、この振興策により、2025年までに1兆ドルのデジタル経済および国内総産(GDP)5兆ドル達成(2022年実績は3兆3,851億ドル=世界銀行資料)を目指すとした。

不発に終わったベダンタ・フォックスコンの合弁事業

英国系の天然資源開発大手のベダンタ・グループと台湾の電子機器受託生産(EMS)で世界最大手である鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンの合弁会社、ベダンタ・フォックスコン・セミコンダクターは、グジャラート州アーメダバード近郊で半導体やディスプレーの生産を2027年前半から行う予定だった。上記の政府の財政支援を見込んでのもので、日本企業や韓国企業と技術提携の覚書に調印したとされる。しかし、ベダンタとフォックスコンは今年7月初旬に合弁事業の解消を発表した。

モディ首相の地元グジャラート州—半導体生産のハブ化目ざす

グジャラート州は、ナレンドラ・モディ首相のおひざ元。同州で7月末に「セミコン・インディア2023」がISMの主催で開かれた。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、開会式には、就任以来「Make in India」を提唱しているモディ首相、ブペンドラ・パテル同州首相が出席。半導体生産でのハブ化を打ち出した。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、アプライド・マテリアルズ、マイクロン・テクノロジーといった米半導体メーカーやフォックスコンなどの関係者がインドへの投資に意欲を示したという。マイクロンのサンジャイ・メーロトラ最高経営責任者(CEO)は、インドからの輸出にも言及したと報じられている。

ハブ化構想に対する反響

この半導体生産のハブ化構想には、批判的な見方もある。
同じくジェトロによると、元インド中央銀行総裁のラグラム・ラジャンは「半導体の国内生産よりも、供給国とタイアップして輸入を確保した上で人材育成に重点をおくべき」と提言しているという。
経済合理性の追求の視点からはそういうことになるのかもしれないが、研究面では国防省傘下のガリウムヒ素応用技術センター、インド工科大学(IIT)バンガロール校などでの研究は世界的に進んでいるとされ、人材面での育成もそれなりに図られているとの指摘もある。(敬称略)

次回掲載予定は2023年10月上旬頃→9月21日に公開しました(こちら

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。