世界的なIT人材削減

2023年5月1日

生成AI出現におびえるインドのコーダー

世界のITを支える安価なインドのソフトウエア技術者の行く末について、悲観的な見方が広がっている。
「いわば基礎技術たるChatGPTがソフトウエア技術者にとって替わるとしたら、500万人超のコーダーを抱えるインドほど影響を受ける国はないだろう」(ブルームバーグ 2023年4月17日付)。
「インドのIT業界に大量に採用される新卒者にとっての懸念は、景気の先行きといったマクロ経済動向もさることながら、志願する企業が生成AI(人工知能)を生かそうとして新卒者が担う相当な仕事を永久にいらないものとみなすこと」(インドの有力紙ヒンドゥー 2023年4月17日付)。
インドのIT業界では、かつては化学や鉱業専攻の新卒をも採用したほど技術系を集めるのに苦労したとされるが、時代は変わった。
ChatGPTに代表される生成AIが世界を変えそうな勢いで注目され、単に入力するだけの人材は放逐されそうだというのだ。

米IT企業で広がる人員削減

米国企業では、技術系人員のレイオフが加速している。Layoffs.fyiによると、昨年のレイオフ実施企業・その削減数は1056社・16万4,511人だったが、今年は4月21日段階で608社・17万3,880人と削減数はすでに昨年実績を上回っている。
IT企業では、グーグルの親会社であるアルファベットのスンダル・ピチャイ最高経営責任者(CEO)が1月20日に1万2,000人の削減を発表。Meta(旧Facebook)も昨年11月の1万1,000人削減に続き、半年間で2度目となる1万人を超えるレイオフ実施を明らかにしている。今回は中間管理職が中心で、すでに実施に移されているとされ、同社内の士気低下が報じられている。
2月には、新型コロナ感染時に評判となったZoomが総人員の15%に当たる1,300人の削減と給与カット実施、PayPalが総人員の7%に相当する2,000人の削減をすることも明らかになった。
さらに、IBMが約3,900人の削減を発表。
3月には、アクセンチュアが総人員の2.5%に当たる1万9,000人のレイオフを発表。アマゾンは3月20日に9,000人の削減を明らかにした。
こうしたレイオフの動きはとどまることを知らない。

ドイツ、カナダ企業などはIT人材獲得の「好機」と判断

米国でのIT分野のレイオフ増を睨み、人材獲得の「好機」と見る企業も出てきている。
労働者不足に悩むドイツは、優秀な人材の同国への移住促進に向けた法改正に動いた。自動車大手のフォルクスワーゲンは外国人IT技術者採用に意欲を示し、IT業界団体は13万7,000のIT関連職ポストが空席としている(ロイター電 2023年1月31日付)。
米国の隣のカナダは昨年11月、2025年までの各年に約50万人の移民を受け入れる計画を発表。分野として、医療、製造、建設のほか科学技術・工学・数学も含めている。ちなみに、カナダのウォータールー大は数学部やコンピュータ・サイエンス学部が有名で、マイクロソフトなど米国のIT企業で活躍する同大卒業生は多い。

減少する印IT業界の新卒採用

インドのITサービス企業の新卒採用は減少している。新卒とソフト開発技術者の採用は2022年度(2021年4月‐2022年3月)、38万人だったが、2023年度には28万人に減少した(ヒンドゥー紙 2023年4月14日付)。
個別企業では、上掲紙によると、業界トップのタタ・コンサルタンシー・サービセズ(TCS)の新卒採用は2022年度に1万300人、2023年度に2万2,600人。2024年度には4万人増を見込んでいる。従業員数はなんと61万人を超える。TCSの業績アップに貢献大だった現社長兼CEOのR・ゴピナタンは3月中旬に突然辞任を発表した。現在、次期社長との引継ぎ中というが、コーダーの大部隊を抱える社内のリストラを主張したゴピナタンの見解がタタ・グループの意向にそぐわなかったのが原因との見方が有力だ。2位のインフォシスの2023年度の新卒採用数は2万9,219人と前年度比46%減となり、2024年度は未定としている。(敬称略)

次回掲載予定は2023年6月上旬頃 5月26日公開(記事はこちら

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。