不景気の株高を支える原資はどこから?

2023年5月24日

日経平均株価は今年4月の新年度入りを期に上昇トレンドを加速し、5月19日には30,808円まで上昇した。昨年9月末は25,937円だったので、この8ヶ月間で19%も上昇した計算だ。

市場関係者は株価が高値を更新した理由として、)欧米の金融不安が後退したこと、)円安効果で企業業績が好調だったこと、)東証がPBR(一株あたり純資産)が低い企業に対し改善を促したこと、)W・バフェット氏が日本株投資に前向きな姿勢を示したこと、などを挙げる。

■株価上昇の原因

——景気の回復? 外国人の日本株買い?

だが内閣府の景気先行指数は21年6月をピークに低下を続け、一致指数も昨年8月以降、低下を続けている。よく不景気の株高というが景気の悪化はまだ底が見えていない。

またマーケットは、外国人が7週間で6.2兆円も買ったと囃すが、2月最終週からの5週間で4.2兆円も売り越している。外国人はこの十数年間、3月・9月の期末に日本株を大量に売却し、期初に買い戻すオペレーションを繰り返してきた(図1)。今回も「いつものこと」に過ぎない。

図1(クリックで拡大図表示)
データ出所:財務省

——真因は? 世界に流動性を供給した原資とは

それよりも株価上昇の真因は、日銀が昨年9月以降の半年間で国債を92兆円も購入し、世界に流動性を供給した効果が、サミット前の日本に現れたということだろう。

民間銀行等が日銀に国債を売却した代金は、日銀の当座預金経由対外証券投資等の原資となる。当座預金残高と日本の対外証券投資が連動しているのはその表れだ(図2)。

図2(クリックで拡大図表示)
データ出所:財務省、日銀

つまり日銀の国債大量買いが廻り回って世界の金利を低下させ、株価を押し上げたのである。先駆したのは欧州株で、ドイツ、イタリア、フランス株は3割、韓国、台湾、米国、英国も2割上昇。そこに出遅れていた日本株が買われて追いついた格好だ(図3)。

図3(クリックで拡大図表示)
データ出所:WSJ電子版

■株高は続くのか——Sell in May——

では現下の日本や世界の株高は今後も続くのだろうか。筆者は“Sell in May”というジンクスに違わず、来月から金利上昇と金融危機、景気後退の悪影響が表面化し、今夏には大きな調整局面を迎えると思う。理由はいくつかあるが、ここでは日銀の「利上げ」について指摘したい。

——当面は現状維持、でも金利を上げなければ……

植田総裁は就任時の会見で、「当面はYCC(イールドカーブ・コントロール)を維持する」と述べた。これは日銀が今後も多額の国債を購入するということだ。

だが他国が利上げを行う中、日本だけ金利を上げなければ円安が止まらなくなる。これでは、せっかく日銀が世界に流動性を供給しても、ドル換算後の金額は目減りし、株価に与える効果は減衰してしまう。実際、日本、米国、欧州の3極中央銀行の資産総額(ドル換算)は頭打ちの状態にあり(図4)、多少のタイムラグを置いて、世界の株価は下落するだろう。

図4(クリックで拡大図表示)
データ出所:日銀、FRB、ECB、ブルームバーグ

——「利上げ」のタイミング

このため日銀には、円安が行き過ぎた時点(140円?)「利上げ」に踏み切り一旦、円高に修正することが期待される。

その時点で、(YCC修正の観測で)円債の金利上昇圧力が高まれば、日銀は国債を大量に購入せざるを得なくなる。これは昨年秋と同じ構図であり、廻り回って世界的な株価押し上げ要因となるだろう。

——藁の重みに耐えられるのか、背骨が折れてしまうのか

だが来るべき日銀の「利上げ」は、世界経済や株価に対する最後の藁(ラストストロー)となるかもしれない劇薬である。株価は昨年9月末以降、世界的に2~3割も上昇し、いつ調整してもおかしくない水準にあるからだ。

■絶好の買い場——Come back in September——

“Sell in May”の後は” But remember to come back in September”という言葉が続くという。もし来るべき日銀の「利上げ」で株価が下落したとしても、そこは絶好の買い場となろう。秋口には量的緩和効果で株価は反転すると思われるからだ。

だが、それは同時にインフレを伴う歓迎せざる株高となるのでないか。

次回掲載予定は2023年7月上旬頃→2023年6月26日公開

著者:市岡繁男
1958年、北海道生まれ。81年一橋大学経済学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。支店や調査部を経て、87年から資産運用部門で勤務。1996年に同社を退職後は、内外金融機関やシンクタンクで資産運用や調査研究業務を務めた。 2018年に独立し、現在は財団や金融機関の投資アドバイザーを務める。著書に『次はこうなる』『次はこうなる 2023年』(ICI出版)がある。