通常の分析なら、世界的な株高は終焉するはずだが…?

2023年6月26日

筆者は前回の当コラムで「株価はそろそろピークアウトする」と書いたが、その後も上昇の勢いが止まらない。そう考えた理由は、株高の原動力である日銀マネーの膨張が頭打ちとなりつつあったからだ。実際、その指標である当座預金残高は4月下旬から縮小に転じたが、それでも株高が続いているわけで、読者の皆様には申し訳ありません。だが筆者はそれでもやはり、夏から秋にかけて波乱があるとみている。

■世界的な現象としての株高

まず注目は、昨年9月末を起点にみると、ドイツやイタリアなど欧州株は35%と日本株以上に上昇していることだ(図1)。

図1(クリックで拡大図表示)
データ出所:WSJ電子版

またドルベースの日経平均とナスダックを重ねてみると、両者はほぼ同じパターンを描いている(図2)。

図2(クリックで拡大図表示)
データ出所:WSJ電子版

つまり昨今の株高は世界的な現象であり、外国人投資家はこれまで出遅れていた日本株に着目したということだ。

——ドイツなど欧州株の謎の急騰

 わからないのは欧州株(特にドイツ)が急騰した理由である。欧州中央銀行(ECB)はユーロの発足以来、最も急速な利上げを推進しているが、足元のドイツ経済はリセッション[国内総生産(GDP)が二期連続のマイナス]入りするなど不振を極めている。直近のデータをみても、鉱工業生産はコロナ禍以前の水準を4%超も下回り、小売り売上高は前年比4%減というように良い話は見当たらない。しかもドイツ連立政権は財政赤字を強制的に削減すべく、各省庁の2024年歳出額を2~3%削減する計画だ。

——日本株のほうが理解しやすい

その点、日本はドイツほど経済は悪化していないし金利も上がっていない。グローバル投資家にしてみたら、ファンダメンタルでは説明がつかないドイツ株を買うくらいなら、日本株の方がまだマシという判断があるように思う。ちなみに日経平均がドイツ株と同じくらい(35%)上がるとしたら35000円が視野に入る計算だ。

■世界的な株高は続くのか?

しかし冒頭で述べたように、筆者は今夏から秋にかけて海外から相場が崩れるとみている。

——日米欧中央銀行の資産縮小

理由は4つあって、1点目は、昨年9月末以降、増加していた日米欧3極中央銀行の資産が縮小していることだ(図3)。

図3(クリックで拡大図表示)
データ出所:セントルイス連銀、MSCI

それなのに株価が世界的に上昇している状況は長続きするとは思えない。

——米の金融流動性の縮小と金利の上昇

2点目は、米債務上限問題の決着に伴う金融流動性の縮小だ。米財務省は2月初旬以降、借金が出来ない間の支出をカバーするために、連邦準備制度理事会(FRB)の口座から5000億ドルもの預金を取り崩した。これは形を変えた量的緩和(QE)として機能し、FRBの量的引き締め額(QT)=3000億ドルを上回って余りある流動性を供給した。今春以降、米国株が堅調に推移したのはこのためだ(図4)。

図4(クリックで拡大図表示)
データ出所:WSJ電子版、セントルイス連銀

だが、米財務省は今年9月の会計年度末に向けて、これまで急減した預金を当初の水準に戻さなくてはならない。そのためには5000億ドル相当の資金調達が必要だ。このことは、金融流動性を圧迫するのみならず、金利も上昇させるだろう。
そして現在、こうした理由等から金利が上昇しているにもかかわらず、株価はなぜか堅調に推移している。通常、金利の上昇と株価の上昇は両立しないものだ。

——一部銘柄による歪な株高

4点目は、ナスダックの株価が「2021年11月~22年10月」の下落分の61.8%(フィボナッチ数の節目)に達したことだ。だが、その上昇はアップルなど一部のIT銘柄が押し上げた歪な株高である。本当の強気相場なら幅広く買いが集まるはずだ。

■株価が上がるとしたら、その理由は?

それでも株価が上がるとしたら、何か普通でない理由があるのかもしれない。例えば、巨額の資金を運用する投資家が、今後はインフレが止まらなくなるという判断の下、債券や預貯金から(実物資産としての側面をもつ)株式に資金をシフトしているといったことだ。筆者はそれは一旦、株価が大きく調整した後のことだと想定していたが、すでにその動きが始まっている可能性も否定は出来ない。

次回掲載予定は2023年8月上旬頃→2023年7月26日公開(こちら

著者:市岡繁男
1958年、北海道生まれ。81年一橋大学経済学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。支店や調査部を経て、87年から資産運用部門で勤務。1996年に同社を退職後は、内外金融機関やシンクタンクで資産運用や調査研究業務を務めた。 2018年に独立し、現在は財団や金融機関の投資アドバイザーを務める。著書に『次はこうなる』『次はこうなる 2023年』(ICI出版)がある。