アップル、インド事業強化に本腰

2023年5月26日

アップルがインド事業拡大に乗り出している。その柱は、サプライチェーン面での過度な中国依存の是正とインド市場の本格的な開拓。中国依存度の是正では、モディ首相が推進する「make in India」に沿いインドでのスマートフォンの生産増加を図る。2025年までには、アップル製品の25%はインドを主体として中国以外で生産にされるとの予測もある。
市場開拓面では、2020年に設けたオンラインのアップル・ストアーやタタ財閥企業などによる販売に加え、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)はこの4月中旬、初の自前の旗艦店をニューデリーとムンバイにオープンした。

世界のスマートフォン市場

米インターナショナル・データ・コーポレーション=IDC調べによると、2022年の世界のスマートフォン市場における市場占有率(シェア)・出荷台数で、トップは韓国のサムスン電子で21.6%・2億6,090万台。以下、アップルが18.8%・2億2,640万台、中国のXiaomi(シャオミ)が12.7%・1億5,310万台、同OPPO(オッポ)が8.6%・1億330万台、同vivo(ヴィーヴォ)が8.2%・9,900万台、日本企業を含むその他が30.1%・3億6,270万台。
2023年第1四半期の世界のスマートフォン市場におけるシェア・出荷台数では、サムスン電子がトップで、22.5%・6,050万台。以下、アップルが20.5%・5,520万台、シャオミが11.4%・3,050万台、オッポが10.2%・2,740万台、ヴィーヴォが7.6%・2,050万台、その他が27.7%・7,450万台となっている。

インドのスマートフォン市場、韓国・中国勢が圧倒

ニューデリー近郊のグルガオンを拠点とするカウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチによると、インドのスマートフォン市場では韓国・中国勢が圧倒的な存在だ。2023年第1四半期のメーカー別シェアは、韓国のサムスン電子がトップの20%を占め、以下、ヴィーヴォが17%、シャオミが16%、オッポが12%、オッポの副社長だったSky Li氏が創設したブランドrealmeが9%、その他が26%。 
米CFRAリサーチのシニア・アナリストであるA・ジノ氏によると、中国でのアップルのスマートフォンのシェアが18%であるのに対し、インドでのシェアは5%以下という。
アップルの2022会計年度(2022年9月24日締め)での中国、香港、台湾の売上げが占める割合は約18%で、一方、アップル製品のほとんどは台湾の製造受託企業(EMS)によって中国で生産されていた。しかし、2022年11月、アップルのスマートフォンの最大のEMSである鴻海精密工業傘下のフォックスコン(富士康科技集団)の鄭州工場(従業員規模20万人)で、新型コロナウイルス感染者発生対処の「ゼロコロナ政策」下での隔離措置強化に対する反対運動が起きたことから、アップルは中国への過度の生産依存見直しに動いた。
インドのスマートフォンのOSではアンドロイドが95%以上を占める。その主因は価格。多くはiPhoneの最も安い価格品より安い価格で販売されている。

クックCEO、モディ首相と会談

ニューヨーク・タイムズ紙は、アップルのティム・クックCEOがムンバイの旗艦店をオープンしたことを報じた際、「世界最大の上場企業が世界最大の人口を有する国についに初の小売店舗を開いた」と表現した(同紙4月18日付)。
同紙はまた、クックCEOとモディ首相とのニューデリーでの4月19日の面談に関して、同CEOが「教育からソフト開発技術者、生産から環境保全に至るまでについて同首相と見解を分かち合った」と述べたと報じた。

タタ・グループとの関係強化

アップルはタタ・グループ企業との関係強化にも動いている。タタ・グループの電化製品の小売りチェーンであるインフィニティ・リテイルはアップル製品を扱っている。このほか、タタ・エレクトロニクスがアップルのスマートフォンのケースを生産しており、同社は台湾のEMSウィンストン(緯創資通)のベンガルール近郊の工場を買収し部品生産にも進出(Hinduの経済紙、ビジネス・ライン2023年4月9日付)。また、同じく台湾のEMSであるペガトロン(和碩聯合)のiPhone生産工場を買収するのではないかともいわれている(上掲紙)。

次回掲載予定は2023年7月上旬頃→2023年6月26日公開

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。