インド工科大、グローバル展開を始動

2023年7月24日

インドの技術・経済発展に貢献し、米グーグルの親会社アルファベットの最高経営責任者(CEO)であるスンダル・ピチャイなど米シリコンバレーのIT企業経営者を輩出していることでも知られるインド工科大学(Indian Institute of Technology=IIT)が海外進出意欲を強めている。IITは2022年夏にグローバル展開を決め、IITボンベイ校がアフリカのタンザニアの島嶼部ザンジバルにグローバルキャンパスを今年10月に開設することで現地政府と合意した。IITデリー校は中東のアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに同キャンパスを開くことで、このほど現地政府と覚書を交わした。さらに、IITカラグプル校がマレーシアのサイバージャヤ大と提携した。中東諸国、タイ、ベトナムなどへの進出も計画されている。

IITの歴史、モデルは米MIT

IIT設立の動きはまず西ベンガル州で起こり、米国のマサチューセッツ工科大(MIT)をモデルとした工科大を国内の東部、西部、北部、南部に設立すべきとの声が起こった。
最初のIITは1951年8月に西ベンガル州のカラグプルに「IITカラグプル校」として創設された。その後、インド独立後の初代首相であったジャワハルラル・ネルーがIITボンベイ校の設立を指示した。1961年には、「IIT法」が国会を通過した。
IITを巡っては、東西冷戦時代に中立策を採ったインドの立場を反映し、ソ連(現ロシア)がIITボンベイ校の創設・整備に関与する一方、米国は北部のIIT設立を支援といった展開もあった。
工学系の単大などの改名や2000年代後半の相次ぐIIT校設立などIITは拡大を続け、現在、23校を数える。各校によって難度は異なるとはいえ、入学が難しい大学として知られる。
グローバル展開に関しては2022年夏に英国、UAE、エジプト、サウジアラビア、カタール、マレーシア、タイ、タンザニアへのキャンパス展開を決めた。

IITボンベイ校、アフリカのザンジバルにグローバルキャンパス開設

IITボンベイ校が、島嶼ザンジバルへのグローバルキャンパス開設で合意したのはこの7月初旬のこと。インドの教育省とザンジバルの教育・職業訓練省との間で、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相とザンジバルのH・A・ムウィニ大統領の臨席の下、覚書が交わされた。
ザンジバルは、アフリカ本土のタンガニーカ共和国と合邦したタンザニア連合共和国の一角。歴史的にインド洋貿易の拠点であり、かつて奴隷貿易の拠点でもあった。大陸のタンガニーカとは歴史・文化が異なる。現在、外交・安全保障については連合共和国政府の管轄下にあるが、ザンジバルは自治政府が統治している。ザンジバルのH・A・ムウィニ「大統領の臨席」はそうした事情の反映だ。
インドのジャイシャンカル外相は「この合意は、インドのグローバル・サウスに対する関与の反映」と述べている。
IITボンベイ校は、ザンジバルのキャンパスで4学士プログラムと5修士プログラムを10月から開始する予定。IITボンベイ校がカリキュラム選定と学生選抜を行い、経費はザンジバルの教育・職業訓練省が持つ。修了者には、データサイエンスと人工知能(AI)の学士号が付与される。

IITデリー校はUAEに設置

UAEのアブダビ教育・知識局とインド政府はこの7月15日、アブダビにIITデリー校のキャンパスを開設する覚書に調印した。調印式には、アブダビ首長のムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーンと同地を訪問していたインドのナレンドラ・モディ首相が臨席した。
2024年から学位を付与する予定という。

IITカラグプル校 マレーシアのサイバージャヤ大と提携

IITカラグプル校はマレーシアのサイバージャヤ大と提携した。
サイバージャヤ大は、クアラルンプール空港と新行政都市プトラジャヤに隣接する経済特区マルチメディア・スーパーコリドーにある大学。
IITカラグプル校のマレーシア・キャンパスは今年9月に開校の予定だ。同校のクマール・テワリ校長は昨年末の卒業式で「インド初のIITによる初のグローバルキャンパス設置」と矜持を示した。
(敬称略)

次回掲載予定は2023年9月上旬頃→8月23日に公開(こちら

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。