シンガポールのソブリン・ファンド、フィンテックなどテック系投資を強化

2023年10月27日

シンガポールは人口約564万人、国土は東京23区内と同程度という小国ながら、観光や物流、金融サービスなどのハブ機能を生かし、外貨準備高は3,372億ドルで世界の上位15傑に入っている。今もたゆまずソブリン・ファンド(政府系投資会社)が外貨準備高の運用を図っている。その一環として、フィンテックなどテック系投資を強化している。
外貨準備の運用については、通貨金融庁(MAS)が業務の一環として管理しているが、実際の運用を担っているのは政府系投資会社のGIC(旧シンガポール投資公社)とテマセク・ホールディングスだ。

世界11位のシンガポールの外貨準備高

表1は、外貨準備高上位30か国・地域の順位(時点は、多くが2023年。Wikipediaの「List of countries by foreign-exchange reserves」 を元に作成)。1位が3兆1,150億ドル(約465兆6,930億円)の中国、2位が1兆2372億4200万ドルの日本、3位が8,769億8500万ドルのスイス、4位が5,869億800万ドルのインド、5位が5,640億1000万ドルの台湾、6位が5,628億ドルのロシア、7位が4,270億4800万ドルのサウジアラビア、8位が4,183億6500万ドルの香港、9位が4,183億100万ドルの韓国、10位が3,441億7700万ドルのブラジルと続き、シンガポールは3,372億5200万ドルで11位にランクされている。

外貨準備高の運用

外貨準備高の管理は中央銀行である通貨金融庁が(MAS)が行っているが、MASは通貨政策、銀行・証券・保険など金融サービスの包括的監督と金融安定化監視、為替相場管理、貿易・資本取引など多岐にわたる業務をおこなっている。
このため、外貨準備高の具体的な運用を図っているのは、GICとテマセク・ホールディングスだ。

GIC

GICは、2023年3月末までの20年間の投資リターンが名目で6.9%、実質で4.6%と高水準の実績を有している。
GICの2023年3月末段階の投資分野別シェアを見ると、先進国株式が13%、新興国株式が17%、名目債と現金が34%、インフレ連動債が6%、不動産が13%、未公開株が17%となっている。
国・地域別シェアでは、米国が38%、中南米と英国が各4%、ユーロ地域が9%、中東やアフリカそれにその他の欧州地域が各5%、日本が6%、その他のアジアが23%、グローバルが11%となっている。
個別の投資案件としては、フィンテックへの投資を強化しているようだ。その案件としては、アイルランドと米国を本拠とし、評価資産額が500億ドルとされる決済会社のストライプ(Stripe)、越境決済のニウム(Nium)、ゲームといったデジタルコンテンツの越境決済などのコダ・ペイメンツ(Coda Payments)、暗号通貨のコインベース(Coinbase)など欧米・イスラエルやシンガポールなどのフィンテック企業15社以上に投資している。
MASは流動性重視の投資姿勢を強め、より高めのリターンを追求するGICの運用を増やしているようだ。
日本関連では、西部ホールディングスから買収することになっていたホテルなど31施設のうち、サンシャインシティプリンスホテルや志賀高原焼額山スキー場など5施設については短期間の第三者の同意取得が困難との理由で買収中止になったと報じられている。

テマセク・ホールディングス

2023年の投資地域別では、シンガポールが28%、中国が22%、シンガポールと中国を除くアジアが13%、北米・中南米が21%、欧州・中東・アフリカが12%、豪州・ニュージーランドが4%となっている。
2023年の分野別では、輸送・製造業が23%、金融サービスが21%、通信・メディア&技術が17%、小売り・不動産が16%、生命科学・アグリフードが9%、多角的ファンドが8%、その他(クレジットを除く)が6%となっている。
輸送・製造分野を見ると、港湾運営のPSAインターナショナル、地下鉄・バス・タクシー会社運営のSMRTコーポレーション、シンガポール航空、国防・工学のSTエンジニアリングなどが傘下。いずれも公的な性格を持つ優良企業だ。
金融サービスでは1960年代末に政府が設立したDBS(旧シンガポール開発銀行)グループの大手株主。通信・メディア&技術では、通信のシンガポール・テレコミュニケーションズ、テレビ・ラジオ・新聞・映画製作のメディアコープがある。
メディアが入っているのは、シンガポールでは新聞・放送などメディアに政府が直接関与していることを反映している。

次回掲載予定は2023年11月下旬頃→11月23日に公開しました(こちら

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。