タタ・エレクトロニクス アイフォーンのEMSに進出

2023年11月23日

インドのタタ・エレクトロニクスが、米アップルのiPhone(アイフォーン)のEMS(電子機器の受託製造)に乗り出す。2023年10月末に、ラジーブ・チャンドラセカール電子・IT閣外相(兼技能開発・起業促進閣外相、副大臣級)が X(旧ツイッター)への投稿で明らかにした。
インドのスマートフォン市場では、3万ルピー(約5万3,400円)以下の価格帯が90%程度を占め、10万ルピーを超えるアイフォーンの販売量はまだ少ない(日本貿易振興機構=ジェトロ、「インドにおける携帯電話製造およびサプライチェーンに関する報告書~通信環境、市場を踏まえて」2023年3月)。
アップルのインドでのスマートフォン市場シェアは3%だが、2023年4月にニューデリーとムンバイに同社製品販売の初の自前の旗艦店を開いている。その際、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)はインドのモディ首相と会見している。
アップルはタタ・グループ傘下のタタ・エレクトロニクスと、いわば「黄金コンビ」を組んでアイフォーン製造を始め、インド市場で人気があるアイフォーンのシェア拡大を図る。タタ・グループの電化製品の小売りチェーンであるインフィニティ・リテイルはアップル製品を扱っている。
インドでのアイフォーン製造は、ナレンドラ・モディ首相の生産連動型奨励策(PLI)など「make in India」政策に沿うものだ。

インドにおける携帯電話の普及・製造状況

モディ現首相が首相に就任した2014年の出荷携帯電話の国産化比率は19%に過ぎなかったが、インドは2014年からのわずか2年間でスマートフォンとフィーチャーフォン(ガラケー)を合計5億台組み立てるまでになったという。
インド携帯電話・電子機器協会(ICEA)によると、2022年度(2022年4月−2023年3月)のインド国内の携帯電話製造台数は約3億台。国内向けと輸出がほぼ半々だ。

インドのスマートフォン市場における各社のシェア

91mobilesの「インド・スマートフォン調査2023」によると、シェア・トップは韓国のサムスン電子の19.8%。以下、中国のXiaomiが16.5%、中国のRealmeが14.3%、中国のVivo(ヴィーヴォ)が11.7%、中国のOPPO(オッポ)が8.9%、中国のOnePlusが6.1%、米国のモトローラが3.6%、Xiaomi傘下のミッドレンジ・スマートフォンメーカーのPOCOが3.2%、米国のアップルが3.0%、中国のTranssion(トランシオン)傘下の香港Infinix Mobileが2.2%、英国のNothingが1.9%、ヴィーヴォ系のiQOOが1.8%、中国のTecnoが1.3%、米国のグーグルが0.9%、その他が4.9%となっている(図1参照)。

図1 インド進出スマートフォン・メーカーのシェア順位
出所:91mobiles 「インドのスマートフォン調査2023」

パールシーが出自のタタ財閥

タタ財閥の出自は、イスラム勢力の侵入するササン朝ペルシャ(現在のイラン)から逃れる形で、8−10世紀にインド西部に当時の藩王から移住を許可されたゾロアスター教(拝火教)の信徒であるパールシー。ジャムシェドジー・タタが1868年にタタ・サンズを設立し、英植民地時代に製鉄業を起こし、以後、電力、航空事業、自動車・自動車部品、化学、軍事関連、ホテル、時計・宝飾品販売など多角的な事業展開を行って来ている。傘下企業数は100社を超え、うち上場企業は29社を数える一大企業グループだ。2022年度の総売上高は150億ドル(約2兆2,130億円)。
異色の出自故、持株会社タタ・サンズの66%の株式を社会貢献関連の財団が保有などとインド社会に気を配っている。ジャムシェドジー・タタの直系はその息子のドラブジーで絶え、以後、タタ財閥総帥には同族の有能者が選抜されてきている。
日本とは、ジャムシェドジー・タタが渋沢栄一と綿花の輸送で話し合い、日本郵船がタタ商会と共同でボンベイ航路開設などと創業当初から長い関係を有する。
現在、タタ・サンズの名誉会長であるラタン・N・タタは米コーネル大で建築学を学び、ロサンゼルスで働いていた際に、タタ財閥の第4代総帥のJ・R・Dタタからタタ・グループ入りを要請され、まず、タタ製鉄で事業経営を学び始めた。
ラタン・N・タタに、1981年に都内でインタビューしたことがあるが、「来日途上のシンガポールで(もう一つの持株会社である)タタ・インダストリーズ会長への指名を知らされた」と語っていた。インドの電子業界使節団の一員としての来日だった。ラタン‧N‧タタとは、タタ・グループとシンガポール政府が1990年代央にインドのバンガロール(現ベンガルール)に共同でIT団地をつくることで合意した折のシンガポールでのパーティーで再会。彼の薦めで、その後、同団地を取材したここともある。
ラタン・N・タタは名誉会長に退いても、ITの役割を重視している。
その代表例は、タタ電力の通信関連に端を発するタタ・コンサルタンシーサービセズ(TCS)の経営をN・チャンドラセカランに委ねたこと。チャンドラセカランはTCSを世界有数のIT企業に育てあげ、そのCEOを長らく務めていた。チャンドラセカランは2017年からタタ・サンズの会長を務めている。

タタ・エレクトロニクスとアップル提携の今後

タタ・エレクトロニクスは従来、アップルのスマートフォンのケースを製造していたが、今度は地場企業初のアイフォーンのEMSへの進出だ。
インドでアイフォーンのEMSを行っていた台湾の緯創資通(ウィストロン)から子会社のウィストロン・インフォコム・マニュファクチャリング・インディアを1億2,500万ドルで買収することで2023年10月末に合意。アイフォーンの組み立てに進出することになった。
ウィストロンのアイフォーン組み立ては2017年からだが、その後、同じく台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)、和碩聯合科技(ペガトロン)なども同組み立てに進出している。
タタ・エレクトロニクスが、ウィストロン以外にも買収の手を伸ばすかどうかが注目されるところだ。(敬称略)

次回掲載予定は2023年12月下旬頃→12月23日に公開しました(こちら

著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。