目次
印IT大手インフォシスのナラヤナ・ムルティ名誉会長、若者を叱咤激励
インドの大手ITサービス企業インフォシスの名誉会長であるナラヤナ・ムルティは最近、You Tubeで「月明かりの罠に陥るな。いよいよ君たちの時代だ。週に6日・70時間は働くべき」と述べ、若者たちを叱咤激励した。タイムズ・オフ・インディア紙が2023年12月11日付けで報じたもので、現在、77歳を超えた彼は、刻苦勉励の生活を40年間以上送ってきた、と述懐している。
ムルティは2023年11月末にカルナタカ州ベンガルールで開かれた「ベンガルール技術サミット」で、インドのインフラ整備・建設工事に言及し、3シフト制導入を提唱。そうすれば中国を追い越す可能性もあるとした。
また、インドの2,000億ドルのソフトウエア輸出でのベンガルールの貢献について触れ「35%-37%はベンガルールから」とし、GPT-4 など新技術の可能性についても常なるイノベーション気風が重要と強調した。
インド企業として初めて米NASDAQに上場——東大で講演も
インフォシスは1981年、ナラヤナ・ムルティなど数人で設立。当初から海外を主体とした事業展開を進めたが、軌道に乗ったのは1991年のインドの経済自由化以降。
インフォシスは米カーネギーメロン大ソフトウエア工学研究所が規定するCMMI(能力成熟度モデル統合)で最高のレベル5に認定された。1999年にはインド企業として初めて、米国のベンチャー企業向けの店頭市場であるNASDAQに株式を上場した。現在はボンベイ証券取引所、ニューヨーク証券取引所に上場している。2023年度第一四半期(2023年4月-6月)の売上げは46億1700万ドルで、その約62%は北米、約26%は欧州からで、インドは2.6%に過ぎない。総利益は14億600万ドル。社員数は34万3千人強。56か国に274の事務所を構え、日本支店もある。
ナラヤナ・ムルティは、2006年に東大総長諮問委員に選出され、2010年には東大で講演。
インフォシスは同年にインド企業として初めて日本経済団体連合会に入会した。
ナラヤナ・ムルティは、米国のコーネル大学、ペンシルベニア大ウォートンスクール、スタンフォード大経営大学院、英オックスフォード大ローズトラストなどの理事、インド経営大学院アーメダバード校の理事長も務めた。
娘のアクシャナ・ムルティは英首相リシ・スナクの妻
娘のアクシャナ・ムルティは、英国の首相リシ・スナクの妻だ。リシ・スナクの両親はアフリカから移住したインド系で父親は医師、母親は薬剤師。同首相は英オックスフォード大卒後、米スタンフォード大でMBA(経営学修士)を取得したが、ここでアクシャナ・ムルティと知り合ったようだ。
アクシャナ・ムルティはインフォシスの発行株式の約0.9%を保有している。株価の変動でアクシャナ・ムルティの同株保有資産額は変動するが、英スタンダード紙2023年10月13日付けによると、その保有資産額は680万ポンド(約1,240億円)に上る。
リシ・スナクも大富豪だ。
ナラヤナ・ムルティの信念
ナラヤナ・ムルティは「週に6日、朝の6時20分から夜の8時30分まで事務所で仕事をする勤勉な生活を1981年の創業以来続けた」と印エコノミック・タイムズ紙に語り、「勤勉を通じてこそ国は繫栄する」との信念は揺るがない。
彼の父はカルナタカ州マイソールで教師をしていた。子供は8人。ナラヤナ・ムルティは5番目の子だったようだが、マイソール大で電気工学の学士を取得。その後、ウッタルプラデシュ州のインド工科大カンプール校でコンピューター科学を学んだ。冒頭で指摘したように、彼は中国より早くインフラ整備を進めるべきと主張している。
果たして、インドの若者はナラヤナ・ムルティの信念にどう応えるだろうか。(敬称略)
中村悦二さんの連載は今回で終了します。ご愛読どうもありがとうございました。
著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。