今、第三次オイルショックが起こってしまったら

2023年12月23日

主流派のエコノミストは、2024年は実質金利も名目金利も低下し、非常に低い水準に戻ると主張している。だが筆者の見方は異なる。

■米政府債務

米政府の債務は急増しており(下の図1)、連邦準備制度理事会(FRB)は引き続きインフレ圧力に対抗せざるを得ないからだ。「バイデン政権の支出は持続不可能」というパウエル議長の政府批判発言はFRBメンバーの総意だろう。

——ウクライナ戦争への援助とインフレ

政府債務急増の一因はウクライナへの援助である。古来、戦争は最大級のインフレ要因であり、FRBがウクライナ戦争勃発の直後から利上げを開始したのは偶然ではない。

逆に言えば、戦争が終わればインフレ圧力は弱まり、金利も低下するのかもしれない。今年3月にはロシア大統領選があるので、プーチン大統領もそれまでに大規模攻勢をかけて、戦争の決着をつけようとするはずだ。

——戦争終結と株価への影響

だが戦争が終われば、今度は米国株が変調を来す恐れがある。政府債務を増やして拠出した対ウクライナ支援金が軍需関連など幅広い産業に還流し、金利上昇下の株価上昇をもたらした側面は否定できないからだ(図1)。

図1(クリックで拡大図表示)
データ出所:FRB、米経済統計局(BEA)

■中東のリスク

しかし実際には戦争終結どころか、中東で新たな戦争が始まるリスクが高まっている。イスラエルはいま予備役を動員しているが、そろそろ彼らを復員させなければ経済が持たない。敵対勢力はそのタイミングを待って攻勢をかけるのでないか。

——オイルショックとインフレ

1973~74年の第一次オイルショックでは、米インフレ率は一旦は低下したものの、その後はイランの政情不安→第二次オイルショックでこれまで以上に急騰した。今回も同じ軌跡を辿る可能性が有り得る(図2)。

図2(クリックで拡大図表示)
データ出所;米労働統計局
※各種米金融サイトに掲載されていた図を参考に筆者が作成

——原油生産国とホルムズ海峡

では中東紛争が悪化し、エネルギー価格が大幅に上昇したら一体どうなるだろうか。まず知っておきたいことは、世界の産油国上位10カ国中、5カ国(サウジアラビア、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート)はペルシャ湾に面していることだ。

入り口にあたるホルムズ海峡は、航路として利用出来る幅は最狭3キロしかない。そんなペルシャ湾岸5カ国の原油生産量は世界の29%を占める(図3)。

図3(クリックで拡大図表示)
データ出所:Energy Institute

——ホルムズ海峡封鎖の可能性

イランはイスラエルや米国が攻撃してきた場合、海峡を封鎖すると公言している。1974年の第一次オイルショックでは、世界の原油生産量は前年比5%減少し(中東5カ国は11%減)、価格は4倍に高騰した。79年の第二次オイルショック時も世界の生産量は5%減少し(5カ国は15%減)、価格は約3倍になった。いま世界の原油生産に占める湾岸5カ国のシェアは29%で、79年(32%)とほぼ同じなので、ホルムズ海峡が封鎖されたら、原油価格は79年と同様、3倍になってもおかしくない。

しかも、この50年間で、中東からの輸入が多いアジア各国の原油消費量は約4倍に増加している。いま中東で戦争になれば、日本は購買力が大きい中国等との間で原油の争奪戦が起きて、価格以前に原油の調達が難しくなる恐れがある。

——日本の中東原油への依存

我が国は二度に亘るオイルショックの教訓から原油調達先の分散を図ってきた。その甲斐あって、中東原油の依存度は一時、68%まで低下した。だが、いつの間にか元に戻り、2022年度は過去最高の95%に上昇している(図4)。

図4(クリックで拡大図表示)
データ出所:資源エネルギー庁

——米国の債務比率の高さ

さらに注目は、二度のオイルショックがあった1970年代は、現在と比べて米国の債務比率(家計、企業、政府の債務総額÷名目GDP)が極めて低かったことだ(図5)。

図5(クリックで拡大図表示)
データ出所:アメリカ歴史統計、FRB

第三次オイルショックになれば、原油に連動して金利も急騰するだろう。だが、その金融に与えるインパクトは50年前とは比較にならないほど大きい。かくなるうえは、中東紛争がエスカレートしないよう祈るしかない。

次回掲載予定は2024年1月末頃→1月24日に公開しました(こちら

著者:市岡繁男
1958年、北海道生まれ。81年一橋大学経済学部卒業後、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。支店や調査部を経て、87年から資産運用部門で勤務。1996年に同社を退職後は、内外金融機関やシンクタンクで資産運用や調査研究業務を務めた。 2018年に独立し、現在は財団や金融機関の投資アドバイザーを務める。著書に『次はこうなる』『次はこうなる 2023年』(ICI出版)がある。