シェア上限規制を巡り対立
インドのモバイル電子決済サービス提供会社間で、同サービスのシェア上限を30%とする規制実施を巡って対立が起きている。
この上限は2021年1月に有効となり、シェア上限を超えた企業は2年間かけて規制に従うことになっていた。しかし、上限実施時期は延長され、現行期限は2024年4月となっている。
同国では、日本で導入が図られようとしているマイナンバー制度の先を行き、2017年7月から12桁のAadhaar(アーダール=インド国民識別番号)と納税者番号の紐づけが義務付けられており、今年3月末段階で対象者の約94%に当たる5億1千万人が紐づけ手続きを終えている。様々な金融機関・事業会社が送金システムであるUPI(統合決済インターフェース)を利用したモバイル電子決済サービスを提供している。
フォーンペとグーグル・ペイが目下シェア85%占有
NPCI(インド決済公社)によると、UPIにおける今年4月のシェア(取引額ベース)では、フィンテック新興企業のPhonePe(フォーンペ)とグーグル・ペイの上位2社が85%近くを占めている。シェアは前者が50.5%、後者が33.7%だ。従来から両社の競争は激しい。以下、中国のアリババグループの金融関連会社アントグループが出資するPaytm(ペイティーエム)が11.1%、CREDが1.5%、その他が3.3%だ(電子決済動向に詳しいInc42の5月14日付)。上位2社にとって、シェアの上限規制実施は大打撃となる。
フォーンペは米ウォルマート傘下
フォーンペの設立は、2015年。翌々年に支払いアプリ・サービスに進出した。現在の登録ユーザー数は4億6,500万人。この数はオンライン決済、オフライン支払いの合計と見られるが、フォーンペのアプリで複数の銀行口座の管理、各種の保険契約・更新、投資信託の購入など様々な使い道を可能にしている。
同社の親会社であるFlipkart(フリップカート)はインド工科大デリー校の同窓の二人が2007年に設立した大手電子商取引サイトで、現在、米国の小売り大手チェーンであるウォルマートの子会社。フォーンペはウォルマートに加え、米投資会社のゼネラル・アトランティックやタイガー・グローバル・マネジメントなどから総額7億5千万ドル(1,058億円)の出資を受けている。ウォルマートのD・マクミランCEO(最高経営責任者)は、エコノミック・タイムズ紙のインタビューの中でフォーンペの株式上場について聞かれた際、時期については明言を避けたが、フォーンペの株式上場には積極姿勢を示している。
RuPayの海外進出
インド決済公社はUPI上で使える「RuPay(ルペイ)」のデビットカード、クレジットカードを2012年に発行。以来、Visaやマスターカードなどと競合している。フォーンペは同公社と連携し、RuPayの20万枚のクレジットカード使用を可能とする初の電子支払いアプリとなった(5月23日フォーンペ発表)。
中央銀行であるインド準備銀行のダス総裁はこのほど、RuPayカードを外国でも使用できるようにプリペイドの同カード発行認可を明らかにした(エコノミック・タイムズ6月8日付)。
次回掲載予定は2023年8月上旬頃→2023年7月24日公開(こちら)
著者:中村悦二
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。